Quotes
Generally speaking, design anthropologists work at the “fuzzy front end” of the product development cycle.
Christina Waason in Design Anthropology. General Anthropology 23(2):1-11
Findings
デンマーク、協働、人類学
デンマーク・オーフス大学人類学修士課程に在籍する約40人の学生たちは、第2セメスターから第3セメスターにかけて半年間のフィールドワークを実施する。そのうち半数ほどは、民間企業や国際機関、非営利組織と共同で民族誌調査・研究を実施する、「field praktikum」という形式をとっている。これは、デンマークにおける「協働の人類学」を表す代表的な制度だ。
Christina Wassonが指摘するように、デンマークは、ヨーロッパの中でも特にデザイン人類学のコミュニティが大きく、公共セクターと人類学が協働して市民サービスの質向上に取り組む事例が多く見られる。例えばオーフス郊外の地域行政は、人類学の修士課程の学生を巻き込み、地域における商業コミュニティの繁栄と中長期的な投資誘致の未来ビジョンの策定プロジェクトを実施している。またデンマークの難民支援機関は、今後デンマークに入国する100名規模の難民を、以降10年間のエスノグラフィを通してそこに生じる諸問題や生のリアリティを明らかにしていく。そこには2人の修士、2人の博士課程の学生が参加し、教授クラスの指導のもとでそれぞれの調査を進めていく。
行政だけでなく、民間企業にも同様の動きが見られる。世界最大の風力エネルギー企業であるベスタスは、世界70以上の国での従業員のオンボーディング体験の向上を目指して、エスノグラフィ調査と人類学的な分析に基づくインサイト抽出を継続的に実施している。今年は修士課程の学生を一名採用し、共同研究を実施している。
こうした動きにおいて一貫して重要なのは、一定水準以上の人類学学位を取得した人材が政府系機関や民間企業に参画し、内部からの働きかけを通してアカデミアの人類学者たちと積極的に協働機会を創出していることだ。事実、上記のような行政や企業でコラボレーションの窓口となるのは、オーフス大学やコペンハーゲン大学人類学部の卒業生たちであることが多い。
デザインは、そのスコープの拡大とともに様々な領域へその知を広げていった。一方の人類学は、そうしたアウトリーチや、具体的なビジョンを持って学生たちを社会に送り出すことをそれほどしてこなかったように見える。デンマーク人類学からもヒントを得ながら、未来の人類学を考えていくために、その協働の可能性を引き続き議論をしていきたい。
Readings
Michael C. Ennis-McMillan and Cathy Lynne Costin, How We Create Closeness with Remote Communication. Open Anthropology. Volume 9, Issue 1. March 2021
人類学ジャーナルのひとつOpen Anthropologyによる、いわゆる「リモート」に焦点を当てた論文集。現代文化研究がデジタルや電子機器の側面から「リモートコミュニケーション」を語るのに対して、考古学的研究は人類が何千年にもわたって、時間と空間を超えようと試みてきたことを明らかにしています。
Wasson, Christina. 2016. Design Anthropology. General Anthropology 23(2):1-11.
「デザイン人類学」が関心を寄せる問いやその背景について、コンピューターサイエンスや参加型デザインなどを参照しながらクイックに解説しています。参考文献もおすすめ👀
Köhn, Steffen. 2020. Desktop Documentary: Screens as Film Locations. In: The Routledge Handbook of Ethnographic Film and Video, ed. Phillip Vannini. Abingdon and New York: Routledge: pp. 267-277
人々がデジタル空間とリアルを横断的に行き来する様をエスノグラフィックに描く上で、コンピューターやスマートフォンの「スクリーン」を記録対象として捉えるという考え方。オーフス大学での指導教官の一人であるSteffenによるチャプターです。
Updates
Anthropology in Business by Matt Artz
ビジネスとデザインの世界で人類学者として活躍するMatt Artzのポッドキャストでは、同様のキャリアを歩むゲストを呼んで対話をする形式。5月の回は、デザイン人類学者で環境活動家のLaura Korčulaninがゲストです。
『Designs for the Pluriverse』で多元的デザインを論じたArturo Escobarが、6月4日に上智大学主催で講演を行うそう(オンライン)。『開発との遭遇』は開発人類学の講義でも読んだことがあり、表題の「多元的トランジション」がいかに語られるのかが楽しみ。